法人成りのメリットとデメリット
事業を行う上で考えるべきこととして、税金が挙げられます。
多くの個人事業主は事業を継続し、発展させていくために多くの時間を費やしております。
失敗すれば財産の全てを手放す覚悟で事業に取り組んでいる為、事業で稼いだお金の何割かが税金として支払われる上で、税金の知識は必要不可欠になります。
個人事業主が税金を少しでも安く済ませる事が出来る節税手段として、法人成りというものがあります。
この法人成りについて解説していきたいと思います。
◆法人成りの意義
法人成りとは、個人で事業を行っている個人事業主やフリーランスが、その後に法人を設立し、法人として事業を継続していくことを言います。
ポイントは最初から法人として事業を開始する場合には、法人成りとは呼ばず、すでに個人で事業を始めており、その事業を途中から法人として継続していくことを法人成りと言います。
近年では、グローバル化やITの発展によって、様々なサービスを受ける事が出来る時代となりました。その反面、他社との差別化を図る為、収益力や効率化を要求される競争社会でもあります。
このような社会環境により、倒産数が増加している時期もありますが、平成18年の会社法改正により、法人設立数が増加しているのも現状です。
平成18年の会社法改正とは、従来は法人設立の要件として、株式会社は資本金1,000万円、有限会社は資本金300万円が最低必要となっていましたが、この改正により、その要件が撤廃され、資本金1円あれば法人を設立することが可能となりました。
しかし、法人設立の要件が緩和されたとはいえ、法人成りすることによるデメリットもありますので、以下では法人成りした場合のメリットとデメリットについて解説していきたいと思います。
◆法人成りのメリット
法人成りのメリットは以下6つの項目が挙げられます。
- 社会的信用力が増大する。
法人になるには、登記が必要であり一定の法的制約はありますが、登記されることによって公示されるので、取引の安全性や社会的信用力は高まります。
- 責任範囲が有限責任である。
個人事業主の場合、倒産時の債務弁済にあたり、事業主の全財産を処分する無限責任となります。しかし、法人の場合には、債務弁済については出資した範囲内の責任とされる有限責任となるので、事業規模拡大により負担する額も大きくなる場合にはリスク回避が可能となります。
- 事業承継が容易である。
個人事業主の場合、死亡した際に個人名義の預金口座が凍結されるなど、事業に支障が生じます。
一方で法人の場合には、代表者が死亡した際、預金口座が凍結されるといった事はなく、法人の事業が行えない事態になるといったことはありません。
また、法人は個人とは別人格であるため、代表者が死亡した場合であっても、後継者により法人の事業を継続することが出来ます。
なお、代表者変更はいつでも容易に可能である為、個人事業者に比べて法人の場合には事業承継が容易となります。
- 給与所得控除が利用できる。
給与所得控除とは、一言でいうと会社員の為の経費です。
個人事業主の場合、事業により得ることが出来た収入から必要経費を控除した差額(以下「所得」と言います。)から納税額を計算します。
法人の場合、収益から必要経費を差し引いた所得は、代表者個人ではなく、法人に帰属します。法人が代表者へ報酬を支払った際には法人の経費として認められることに加えて、代表者個人では法人から受領した報酬から給与所得控除を差し引いた所得を基に納税額が計算される為、個人事業主に比べて有利に働きます。
- 欠損金の繰越が9年間可能となる。
個人事業主の場合、損失の繰越しは3年間となっております。
法人の場合、欠損金を10年間繰り越すことが可能となります。
大きな損失が発生した際に、個人事業主であればその後3年先の期間における利益と相殺出来るのに対して、法人であればその後10年先の期間における利益と相殺できます。
法人は個人事業主に比べて欠損金を繰り越せる期間が長い為、個人事業主に比べて有利となります。
- 消費税が2期免税になる。
消費税の納税義務者の要件として、2期前(以下「基準期間」と言います。)の課税売上高が1,000万円以下の場合には消費税の納税義務が免除されます。(以下「免税事業者」と言います。)
よって、法人成りした設立1期目と2期目は、基準期間がないので消費税の納税義務が免除されることになります。
特例により2年間免税とならないケースもありますのでご留意ください。
この消費税が2期免税となる点について注意すべき点がインボイス制度です。
インボイス制度とは
それは令和5年10月1日からインボイス制度が導入される事になりますが、このインボイス制度導入は免税事業者にとって、非常に不利な影響を与えることとなります。
インボイス制度の導入により、免税事業者に不利な影響とは、そもそも欧州ではすでに我が国とは異なり、インボイス制度を導入しております。欧州のインボイス制度では、インボイスを発行出来るのは適格請求書発行事業者(注)に登録している事業者のみに限定されております。
そして、仕入税額控除の適用を受ける為にはこのインボイスを発行出来る適格請求書発行事業者からの仕入れでないと仕入税額控除の適用を受けることは出来ません。言い換えると免税事業者からの仕入れは、仕入税額控除の適用を受けることが出来ないということです。
現在の我が国の消費税制度においては、取引先が課税事業者であっても、免税事業者であっても仕入税額控除の適用を受けることが出来ます。
その理由としては我が国の消費税制度においては、軽減税率制度が導入される前は消費税率が単一税率であり、非課税項目が消費税法で限定されている事、請求書に消費税額が記載されているため消費税額の計算が容易である事などが挙げられる為、課税事業者からでも免税事業者からでも仕入税額控除の適用を受ける事が出来ます。
しかし、我が国においてもインボイス制度が導入されると、欧州のインボイス制度と同様に、免税事業者と取引をしている事業者は、インボイスを発行することが出来ない免税事業者からの仕入れについては仕入税額控除の適用を受けることが出来ないため、インボイスを発行することが出来る適格請求書発行事業者へと取引先を変更する可能性があります。
よって、免税事業者はインボイス制度導入後、取引から排除される可能性が高いので非常に大きな影響を受けることになります。
その為、インボイス制度導入後には免税事業者は課税事業者となる必要がある点に注意が必要です。
(注) 適格請求書発行事業者とは、下記2要件を満たす事業者を言います。
・「適格請求書発行事業者の登録申請書」をインボイス制度が導入される令和5年10月1日の6カ月前である、令和5年3月31日までに納税地を所轄する税務署長へ提出する必要があります。
※特例により令和5年9月30日までの提出を行うことで令和5年10月1日より適格請求書発行事業者となることができました。
◆法人成りのデメリット
法人成りのデメリットは以下5つの項目が挙げられます。
- 赤字でも税金がかかる。
個人事業主が赤字の場合には、所得税や住民税、事業税などの税金を支払う必要はありません。
しかし、法人が赤字の場合、法人住民税均等割というものが発生してきます。
法人住民税均等割は、資本金の額や従業員数によって税額は異なりますが最低7万円の納税が必要となってきます。
- 社会保険に強制加入する必要となる。
個人事業主の場合、社会保険の加入義務は従業員数が5名未満であれば任意加入となります。
法人の場合には、代表者1名の一人社長であっても社会保険へ強制加入が義務化される為、社会保険料の支払いが発生してきます。
- 登記費用が必要となる。
個人事業主の場合、登記費用は不要です。
法人の場合、設立時に登記費用が必要となり、定款認証、登録免許税、司法書士報酬など20万円以上は必要となってきます。
- 一般的には税務調査が入りやすくなる傾向がある
個人事業主の数と法人数を比較した場合、法人数の方が少ないことや法人の方が事業規模が大きいことから、個人事業主に比べて法人の場合には、税務調査に入られる可能性が高くなっております。
- 事務負担が増大する。
法人の場合、会計処理も個人事業主に比べて厳密な処理が求められることや、社会保険などの手続きも毎年行う必要があります。
また、役員の変更登記や株主総会の開催などの事務負担も個人事業主に比べて増大します。
◆結論
最後に法人成りした方が良い人は、どのような人なのかを解説したいと思います。
法人化する一番のメリットは節税です。
個人事業主が納める税金は所得税であり、法人が納める税金は法人税です。
両者の違いは税率になります。
所得税は所得が多くなるほど税率が高くなる累進税率であるのに対して、法人税の税率は一定となっております。
そのため、所得の多い人は法人化して税金を法人税で納める事が節税につながる為、上述したメリット・デメリットを踏まえた上で、所得が多くなり、所得税率よりも法人税率が低くなった人は法人成りすることをおすすめ致します。