川端税理士事務所|秋葉原

インフレ時の棚卸資産(在庫)|最終仕入原価法のリスクと法人税対策

〜最終仕入原価法が原則とされる理由と課税リスク〜

近年、原材料費やエネルギーコスト、物流費などが軒並み上昇しています。
価格転嫁が思うように進まず、企業の利益を圧迫している中、こうした物価高騰は会計や税務にも影響を及ぼしています。

「仕入れ価格が上がっているのに売上総利益はあまり変わらない」
「キャッシュは減っているのに、会計上は利益が出ているように見える」

こうした矛盾の原因の一つが、棚卸資産の評価方法です。


インフレ時に起こる「見かけの利益」

棚卸資産は、決算時に在庫として貸借対照表の資産に計上されます。
この評価額は、損益計算書上の売上原価に影響を与えるため、在庫の評価方法によって利益が大きく変動することになります。

たとえば、年末にかけて仕入単価が上昇していた場合、期末在庫の評価額も高くなります。
すると、実態以上の利益が計上され、結果として法人税・事業税・住民税が増えるという事態が起こります。

このような「実態に即さない課税」が発生する要因の一つが、最終仕入原価法です。


最終仕入原価法とは? そしてなぜ原則とされているのか

最終仕入原価法とは、期末時点で最後に仕入れた単価をもとに、すべての棚卸資産を評価する方法です。
法人税法においては**法定評価法(届出不要)**とされており、届出を行わなかった場合、自動的にこの方法が適用されます。

この方法は計算が簡便で、一定のルールに基づきやすいため、制度上「原則」とされているのです。


なぜ最終仕入原価法で「見かけの利益」が出るのか

具体例で見てみましょう。

● 1月1日:A商品を20個仕入、単価50円
● 12月31日:同じ商品を10個仕入、単価60円
→ 期末時点で在庫が10個残っているとする

実際に売れたのは1月に仕入れた商品10個であれば、通常の原価は
50円 × 10個 = 500円

ところが最終仕入原価法では、最後の仕入単価(60円)で在庫が評価されるため、
在庫評価額 = 60円 × 10個 = 600円 となり、
その差額100円分だけ利益が多く出てしまうのです。

これが、実態を超えた「帳簿上の利益」=見かけの利益の正体です。


棚卸資産評価方法の比較と税務上の位置づけ

評価方法インフレ下の特徴法人税法上の扱い
最終仕入原価法最後の仕入単価で評価されるため、在庫評価が高くなりやすい法定評価法(届出不要)
移動平均法平均単価が都度更新される。価格変動に比較的強い選択可能(届出が必要)
総平均法期中の全仕入単価を平均化。価格変動の影響を平準化できる選択可能(届出が必要)
先入先出法古い仕入から出庫する前提で、実務に即した評価が可能だが複雑選択可能(届出が必要)

届出をしていなければ自動的に「最終仕入原価法」

多くの中小企業では、「移動平均法を使っているつもり」「会計ソフト上は先入先出」と思っていても、税務署への届出がない場合は自動的に最終仕入原価法が適用されます。

そのため、実際の経理処理と法人税申告上の評価方法が一致していないことがあり、税務調査で指摘される原因になります。

また、届出済みであっても、継続適用されていない・実際の処理と乖離している場合には、評価方法を原則に戻される(更正)リスクもあります。


インフレ時代の棚卸資産評価、どう対応すべきか

物価上昇局面では、棚卸資産評価の見直しが必須です。
具体的には、以下の対応が求められます。

  • 評価方法が「最終仕入原価法」のままになっていないか確認する
  • 棚卸資産評価方法の届出が提出済みか、控えが保管されているか確認する
  • 実態に合った評価方法(移動平均法や総平均法など)への変更を検討する
  • 必要に応じて届出を行い、今後も継続適用できる体制を整える
  • 月次棚卸や棚卸システムを導入し、実在庫を正確に把握する

評価方法の選択は中小企業にとって現実的か

たしかに、先入先出法や移動平均法は理論的には実態に即しており、インフレにも対応しやすい方法です。
しかし、すべての仕入単価を把握しなければならないため、経理担当者が少ない中小企業では運用が難しいというのも事実です。

そのため、最終仕入原価法のまま継続せざるを得ない企業も少なくありません。


最終仕入原価法でも実態に応じた利益にするには?

最終仕入原価法を使わざるを得ない状況でも、工夫次第で見かけの利益の発生を抑える方法はあります。

たとえば:

  • 年末の仕入れが明らかに性質の異なるものである場合は、区分評価を行う
  • 商品や原材料にロット差がある場合は、在庫単価の妥当性を検討する
  • 税務上の評価方法と実際の在庫管理方法が乖離しないよう記録を残す

こうした判断には専門知識が求められるため、税理士と相談しながら適正な評価処理を行うことが重要です。


まとめ:インフレ時代こそ「在庫評価」が経営を左右する

インフレによる仕入単価の上昇は、企業の在庫評価に直接影響します。
その評価方法が実態と乖離している場合、帳簿上の利益が増え、納税額が不当に増加するリスクが生じます。

法人税法上、最終仕入原価法が原則とされているからこそ、自社の会計処理と申告内容が一致しているか、定期的なチェックが不可欠です。

関連記事

副業は雑所得に該当?

インボイス制度 適格請求書発行...

会社を売買したい!その価値の計...

仕事のための身だしなみ費用は経...

実務上における消耗品費の事例

上部へスクロール