個人事業主・経営者のための医療費控除完全ガイド

〜家族分もまとめて節税する方法と注意点〜
目次 ▲
1. 医療費控除とは?
医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超える場合に、その超過分を所得から差し引ける制度です。
個人事業主や経営者にとっては、事業所得だけでなく、給与所得・不動産所得などすべての合計所得から控除できるため、節税効果が大きくなります。
控除の計算式は以下の通りです。
(1年間の医療費の総額 − 保険金等で補填される金額) − 10万円(※)
※所得金額が200万円未満の場合は「所得金額 × 5%」
例えば所得が600万円の個人事業主が、年間医療費35万円、保険金で5万円補填された場合
→(35万円 − 5万円) − 10万円 = 20万円が控除対象額となります。
2. 個人事業主・経営者なら知っておきたい対象範囲
事業の経費とは別物なので、医療費控除は「家計の支出」の整理がカギになります。
対象になる医療費は幅広く、以下のようなものが含まれます。
- 病院・歯科での治療費(差額ベッド代など一部対象外あり)
- 調剤薬局での薬代
- 医師の処方によらない市販薬(セルフメディケーション税制の選択も可)
- 通院のための公共交通機関の交通費
- 出産費用(帝王切開も含む)
- 入院時の食事代(保険診療分)
一方で以下は対象外です。
- 健康診断や予防接種(治療目的でないもの)
- 美容整形、ホワイトニング
- 自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代
3. 家族分も合算できる
個人事業主や経営者の場合、生計を一にする家族(同居・別居問わず、生活費の送金や援助がある場合)の医療費を合算できます。
例えば、離れて暮らす大学生の子どもの医療費や、実家の親の医療費も条件を満たせば合算可能です。
控除は一家で1人がまとめて申告するのが有利です。
4. 必要書類と準備方法
医療費控除の申告には、医療費控除の明細書の作成が必要です。
2020年分以降は領収書の提出は不要ですが、5年間の保存義務があります。
準備に役立つ資料
- 医療機関・薬局の領収書(家族分をまとめる)
- 健康保険組合や国保から届く「医療費通知」
- 通院交通費の記録(乗車区間・日付・金額)
領収書は発行日ごとにまとめるよりも、医療機関・薬局ごとに整理しておくと明細書作成がスムーズです。
5. 領収書や証明書をなくした場合の対応
領収書を紛失した場合は、以下の方法で代替可能です。
- 医療機関・薬局に「一部負担金証明書」を依頼(有償の場合あり)
- 健康保険組合の医療費通知を利用
- 銀行・クレジットカード明細で支払記録を確認
- 交通費はICカード履歴や乗車記録で裏付け
6. 医療費控除の計算例
例1:所得600万円、家族全員の医療費合計40万円、保険金補填5万円
(40万円 − 5万円) − 10万円 = 25万円控除
所得税率20%、住民税率10%の場合
→ 節税効果:約7万5千円
例2:所得180万円、医療費合計15万円、保険金補填なし
(15万円 − 0円) − (180万円 × 5%=9万円) = 6万円控除
所得税率5%、住民税率10%の場合
→ 節税効果:約9千円
7. 申告方法
- e-Tax:国税庁サイトで作成・送信。マイナンバーカードまたはID・パスワード方式を使用
- 税務署窓口:紙の確定申告書を提出
- 郵送:提出期限内必着
個人事業主は、青色申告の決算書と一緒に提出します。
8. よくある質問
Q. 医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できる?
→ 同じ年にはどちらか一方のみ選択可能です。
Q. 家族がそれぞれ申告するより、まとめた方が得?
→ 合算した方が控除額が大きくなるケースが多いです。
Q. 事業用の健康診断費用は経費?控除?
→ 事業に直接必要な健康診断(産業医指示等)は経費計上可。それ以外は医療費控除の対象外です。
9. ミス防止チェックリスト
- 領収書は発行日順ではなく医療機関ごとに整理
- 医療費通知は必ず確認し、漏れがないかチェック
- 家族の分も合算できるか確認
- 交通費の記録を忘れずに
- 保険金補填分は差し引く
まとめ
個人事業主や経営者は、事業の経費管理に比べて医療費控除を軽視しがちですが、家族分をまとめることで節税効果は意外と大きくなります。
日頃から領収書・明細を整理し、医療費通知も併用することで、申告時の手間を大幅に減らせます。
特に所得が高いほど控除の効果は大きいため、制度を正しく理解して活用しましょう。